前回にひきつづき、医学部受験生にとってのセンター試験。
今回は倫理・政経についてです。今年も、単純に「知識が細かい」問題はいくつかみられます。この科目の特徴は、学習内容を基本事項だけに絞ると非常に楽なのですが、手を広げると途端にいろいろなものに手を出す必要がある、という点です。
医学部受験生としては
どの程度のところで割り切るかという観点が必要になります。
第1問問1 いきなり細かい知識が出てくる問題。董仲舒が天人相関説を唱えたのは事実であり、肢文はその説の内容についての記述が間違っているので誤択、となるのですが、そうすると天人相関説の内容を知っていなければ解けないことになります。いわゆる「理解が問われる問題」です。
多くの受験生はそこまでの知識を持ち合わせていません。別の選択肢が、明らかな正肢(無難なことしか言ってない選択肢)なので、それを解答して正解となったものと思われます。一般に、共通テスト(センター試験過去問)レベルの問題では、正肢だけでなく全肢文を吟味したいところですが、この科目ではそうもいかないでしょう。
なお予備校の多くは、董仲舒の文章だけでなく、4番のシーア派とスンナ派の文章も「細かい知識」と評しています。しかし、シーア派がカリフの血統を受け継ぐ側の立場だというのは、
現代の社会でも問題となる基本知識です。
第2問問4 丸山真男、小林秀雄、吉本隆明の主張内容をそれぞれ選ぶ問題。これもやや細かいです。
共同幻想論が吉本隆明なのはいいとして、日本思想を雑居と指摘した丸山眞男、近代思想を意匠として批判した小林秀雄はちょっと厳しめです。
原典を読めばいいのでしょうが、理系受験生が簡単に読める代物ではありません。彼らの思想を解説した手軽なものを読んでイメージを掴むしかないかもしれません。それでも、そういう解説文章は、共通テストと物の見方が異なることもあるので注意です。
第5問問5 共通テストらしい思考問題。生物のところで何度か書いてますが、
共通テストの推論は素直です。
包括性は、選挙権が認められている割合。自由化は、選挙権が認められた人々が自由に政府に対抗できるかどうか。
そうすると、一部のエリートだけが自由にふるまう政治体制では、包括性が低いが自由度が高い。逆に、形式的な普通選挙が認められてはいるが制約が強いような政治体制では、包括性が高いが自由度が低い。
そして「チャーティスト運動の頃のイギリス」という選択肢文章から、何らかの抑圧的な制度がありそれに対する社会運動が起きていたのか、そして「ソ連」というフレーズから、さらに抑圧的な社会主義制度をイメージできればいいでしょう。
これ以上の知識を要求するとキリがありません。ちなみに、チャーティスト運動は選挙権を要求する19世紀の運動であり、またソ連ではロシア革命の直前に既に男女普通選挙が実施されていました。そして、この枠組全体を説明したアメリカの政治学者ロバート・ダールは、先に自由化を上げてから包括性を上げるのが、安定した民主化過程だと考えていました。
第6問問4 経済分野からは、貸し渋りやBIS規制が出題されました。
医学部受験生が貸借対照表を試験本番で理解できるとは思えません(資本金がなぜ負債と同じ欄にあるのか、などと考え始めたらキリがありません)が、それでも何とかして正解選択肢を見つけ出したいところです。不良債権を処理すると資本金が減る、というのはイメージできておきたいところです。
対策は、昨年と同じです。
満点狙いであれば、時事問題用語や思想詳解について相当な知識が要求されます。しかし医学部受験生がニーチェや朱子学について詳しく学ぶというのも限界があります。同じく分量が多い科目として歴史がありますが、歴史は、出題レベルがある程度明確です。その点倫政は、「ここまで覚えれば十分」と言い切れるレベルがそれほど明確ではないかもしれません。
そして、これは毎年書いていることですが、社会的な感覚や知識が極端に足りないと、
小論文や面接で手痛い思いをすることになるので、注意が必要です。