今回は現代社会についてです。現社については昨年までは、ここでは書かなかったのですが、筑波・群馬・横浜市立といった大学が現社で受けられるので、今年は取り上げてみました。
社会科のなかでは現社は、ある程度の点数（７割程度）を取るのであれば、最も少ない勉強量で達成できる科目です。一方で高得点を狙おうとすると、範囲が不明確なぶん（現代の社会に関することであればなんでも出題されうる）、労力は大きくなります。
第１問問７
知識問題です。
①現在の日本では行政裁判所は設置されていない。×。②行政手続法は文字通り行政についての手続方法を定めた法律。×。③具体的な細かい内容を全部法律で決めようとすると、改正のたびに国会を開かなければならなくなる。また具体的内容は行政機関（役所）のほうが詳しいことも多い。○。④国会審議活性化法によって、副大臣は設置されたが政務次官は廃止された。かわりに大臣政務官が設置された。×。
さて問題は、これを解けるようにするためには何を勉強すればいいか、ということです。確実なのは行政法について詳細に覚えていくことでしょうけれども、それができる受験生は政経を選択しているはずです。現社を選択するということは、社会の勉強にかける余裕がないわけです。
その受験生に対して「憲法第７６条第２項第２文には『行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。』と書いてあるではないか。これは行政裁判所設置の禁止を意味しているのだ」と言っても、言われた側は「では憲法の条文とその意味を覚えろということか？」となってしまいます。しかも、まだそれなら「憲法の条文さえ丸覚えすればいい」と腹をくくれるのですが、行政手続法やら国会審議活性化法やらになると、もうお手上げでしょう。
しかし一方で、この「何を覚えればいいのかが明確ではない」というのが、公民科の特徴です。歴史科なら、三種の神器（教科書、用語集、資料集）、新三種の神器（穴埋めノート、一問一答、過去問集）で迷いなく勉強ができるのですが、公民は、そうもいきません。
中学受験・高校受験の公民分野の知識がうっすら残っている状態なら、まずテキストを引っ張り出してその知識を再確認するところからはじめればよいでしょう。それで解けない問題はしょうがありません。
その手前の第１問問６もみてみます。これも、ＡＤＲについて正確に押さえるというのは、医学部受験生には期待しにくいです。
①ＡＤＲは弁護士などが公正な第三者となって紛争を解決する制度。○。②民事損害賠償は原則として過失がある場合に責任を負う。無過失でも責任を負うケースは、例外。×。③あっせんはＡＤＲの一種。裁判所が関与しない。×。④自分の物は自由に使えるというのは、所有権絶対の原則であって、契約自由の原則とは異なる。契約は、相手方がいる話。×。
第２問問５
知識問題です。
こちらは全ての選択肢文の正誤を判定する必要があるタイプなので、消去法が使えません。
「共通だが差異ある責任」は、環境問題で時々出るフレーズです。環境問題についてはどの国にも共通して責任はあるが、解決に向けての取り組み内容については、原因への寄与度や資金力を考慮して「差異」をつけよう、というものです。先進工業国の負担が重くなることにつながります。
核拡散防止条約は、核実験禁止条約や核兵器禁止条約と混同しやすいので注意が必要です。核保有国については、譲渡禁止と核軍縮交渉義務がありますが、製造や取得は禁止されていません。
一般特恵関税制度（ＧＳＰ）は、途上国産業を支援するため、途上国「からの」輸入を促進するというものです。
どれも常識の範囲内で解ける問題なのですが、その常識を持ち合わせているかどうか。温暖化ガス排出規制について日本やアメリカ、中国がどういうスタンスなのか。あるいは、関税についての最低限のイメージ。そのあたりを一言で言えるかどうかが、常識を持ち合わせているかどうかということになります。
対策です。
勉強の出発点は、まず教科書です。最近の教科書は読みやすいものが多いので（かつては項目の羅列が多く、教科書は読みにくかったです）、下手にボリュームがあるものを読むよりも、教科書で十分です。今回「知識問題だ」と挙げたものも、教科書をよく読めば、大半は触れられています。もちろん、読みやすい参考書がいいのであれば、それでかまいません。
そして、医療に関する出題は落とさないことです。今年は、第４問問３で脳死臓器提供できるケースが問われています。現在は年齢にかかわらず、本人の意思を確認できないときは家族の承諾で提供可能となりました。こういう問題は、教科書に載っているかどうかにかかわらず（トピックに挙げられているのですが）、必ず押さえておきたいところです。